【論考】「AI研修を受けても組織が変わらない」 ― 中小企業のAI研修業界への苦言

清水圭一

監修・執筆

清水 圭一(しみず けいいち)

日本クラウドコンピューティング株式会社 代表執行役社長 / 中小企業AI研修教育研究所 所長

CSK(現SCSK)、EMCジャパン(現デル・テクノロジーズ)、SAPジャパン、日本オラクルを経て現職。技術ではなく経営者視点・業務視点で、中小企業の実情に即したAI研修・講演・コンサルティングを提供。200社以上の中小企業へのAI導入・コンサルティング実績講演・研修の登壇回数500回以上。著書に「中小企業のためのクラウド導入の手引き」(中小企業経営研究会)。月刊総務オンラインにてコラム連載中。X @CloudComputing7

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本稿は、中小企業AI研修教育研究所 所長・清水圭一による論考記事です。これまで200社以上のAI導入支援、年間50回・累計500回を超える企業講演で接してきた中小企業の経営者・現場の声をもとに、筆者個人の見解を述べます。

AI研修を業務として提供している者として、今回は業界内部への苦言を記す。読者の中には耳の痛い同業者もいるかもしれないが、中小企業のAI活用を本気で前進させるためには避けて通れない論点だと考える。

「半年前にAI研修を実施したが、社員は結局誰も使っていません」――私のもとには、こうしたご相談が毎月のように寄せられる。相談者は決まってこう言う。「研修の内容は良かった。講師の評価も高かった。なのに、なぜ定着しないのか」。

結論から言えば、原因の多くは研修を設計・提供する側にある。そして、その構造は業界全体に根深く埋め込まれている。本稿では3つの構造問題を指摘したい。

問題1:研修が「イベント」化している

最も深刻な構造問題は、AI研修の多くが「半日〜1日の単発セッション」として設計・販売されていることだ。講師を呼んで、会議室に社員を集め、ChatGPTの基本操作を教える。参加者は「なるほど、AIって面白い」と思って帰る。そして、1ヶ月後には誰も使っていない。これが標準的なパターンだ。

なぜこうなるのか。単発研修は発注側・受注側の双方にとって「楽」だからである。発注側は予算取りが1回で済む。受注側は営業コストが1回で済み、単価も高く設定できる。両者の利害が一致した結果、「効果が出ない商品」が繰り返し売買されている。

本来、業務で使える道具を身につけるには、知識を得る段階・実際に触る段階・業務に組み込む段階・習慣化する段階、最低でも4つのフェーズが必要だ。これを半日で完結させようというのは、ピアノを半日で弾けるようにしようというのと同じ無理筋である。

問題2:「汎用AIリテラシー」を教えようとしている

2つ目の問題は、研修内容が「汎用的すぎる」ことだ。「ChatGPTの使い方」「プロンプトの書き方」「生成AIの仕組み」――こうした一般論は、今やYouTubeやネット記事で無料で学べる。それを数十万〜数百万円かけて研修で教える意味はない。

中小企業が本当に必要としているのは、「自社の、この業務で、明日から使える具体的な手順」である。経理担当者が「仕訳チェックを効率化する自社特化プロンプト」を持ち帰り、営業担当者が「自社の商品説明テンプレート生成」を持ち帰る。こうした具体性がなければ、研修は単なる教養講座で終わる。

しかし、ここに業界の構造的な難しさがある。自社特化の研修をやろうとすると、講師は事前に発注企業の業務を深く理解しなければならず、準備工数が爆発的に増える。汎用研修の5倍のコストがかかるのに、研修料金は2倍までしか上げられない。結果、多くのAI研修会社は「汎用研修」に逃げる。これが業界全体の低品質均衡を生んでいる。

問題3:研修会社が「自社でAIを使っていない」

最も率直に言わざるを得ないのが、この3つ目の問題だ。多くのAI研修会社が、自社の業務でAIを本格活用していない。提案書はWordで一から書き、顧客管理はExcelで手入力し、議事録も手で起こしている。そんな会社が「AIで業務を変えましょう」と研修を提供している。これは滑稽を通り越して、ほとんど詐欺に近い。

研修講師の中には、ChatGPTを月に数回しか触らない人もいる。そうした講師が教える「AI活用」は、当然ながら表層的なものになる。受講した経営者や担当者は、内心「講師本人もそれほど使っていないのでは」と気づく。そして、信頼は失われる。

当研究所でも、AI研修のご依頼をいただく。しかし私たちは、自社の営業資料作成、クライアントへの提案書、メールマガジン、リサーチ業務、議事録作成、経理の仕訳チェックまで、あらゆる業務にAIを徹底的に組み込んでいる。講師が日々AIを使っていなければ、受講者の実務に役立つ知見など出てくるはずがないからだ。

発注側にも責任がある

ここまで受注側(研修会社)の問題を指摘してきたが、発注側である中小企業にも責任はある。「とりあえずAI研修」と発注し、研修後の定着プロセスを設計しない。研修担当者が孤立無援で、経営陣は「研修やったからもう終わり」と思っている。こうした受け入れ体制のまま研修を実施すれば、どんな優れた研修でも効果は出ない。

発注側が最低限やるべきことは3つある。1つは、経営者または役員クラスが自ら研修に参加すること。2つは、研修後の「業務適用プロジェクト」を事前に計画すること。3つは、研修から3ヶ月・6ヶ月後の効果測定を最初から組み込むこと。これをやらずに「研修だけ頼む」と言う企業は、正直に言えばお金をドブに捨てている。

業界が健全化するために

AI研修業界が健全化するためには、3つの変化が必要だと私は考える。

第1に、「単発研修ビジネス」から「定着支援ビジネス」へのシフトである。研修は学びのトリガーにすぎず、本質は業務定着にある。3ヶ月〜6ヶ月の継続支援プログラムが業界標準になるべきだ。

第2に、「汎用研修」から「自社特化研修」へのシフト。講師の事前準備に対して適正な対価を払う市場形成が必要である。発注企業も、価格だけで比較することを卒業し、自社業務への理解度で選ぶべきだ。

第3に、「講師本人がAIで業務を回しているか」を選定基準に加えること。依頼前に、講師自身の業務プロセスでAIがどう使われているか質問してほしい。抽象的な答えしか返ってこない講師は、実力が伴っていない可能性が高い。

当研究所は、AI研修を生業としながらこれらの問題を指摘するという矛盾を自覚している。しかし、矛盾を抱えてでも発言しなければ、業界は変わらない。結局のところ、中小企業のAI活用が進まない責任の一端は、私たち研修業者側にあるのだ。この認識を業界全体で共有することが、健全化の第一歩である。

本稿へのご意見・ご批判は、当社お問合せ窓口より歓迎する。同業者からの建設的な反論も大歓迎である。

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